チーボーのブログ

主にライブに行った記録(まちだガールズ・クワイア、NaNoMoRaL、THE ORGANICS、クレイビットなど)

7/30 続・時をかけるチーボー

前編(1年前の出来事)はこちら
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1961804473&owner_id=24615039

30日の誕生日、磯吉に寄って帰宅したら、部屋の明かりがついていた。
妻は仕事で遅くなるはずだし、おかしいな。玄関に靴はない。消し忘れたのかなと思いながら、部屋の扉を開けた。

「お帰りなさい。」
若い男が座っていた。
「誰だ…?お、お前か。いや、俺か。」
「誕生日おめでとう。今年は俺が会いにきてやったぞ。」
「去年より成長、というかおっさんくさくなったな。」
「うるせえ。そっちこそ、今にもくたばりそうな顔をしているじゃないか。」
「いつから来た?」
「40年前。1978年の7月30日。」
なんてことだ。酔いで頭がどうかしてしまったのだろうか?

「高3か。受験勉強、がんばっているか…って、やってないよな。で、冷凍睡眠なんてなかった時代から、どうやって来た?」
「深町のやつに頼んだのさ」
「深町?」
「ほら、両親を交通事故で亡くして、おじいちゃんおばあちゃんと暮らしている深町さ。」
「うーん、なんか映画で観たような話だな」
「土曜日の実験室でさ、放課後に深町と吾朗ちゃんと芳山さんが掃除していたら芳山さんが倒れちゃったことがあっただろ?俺、なんか怪しいと思ってさ、深町を問い詰めたんだよ。」
「で?」
「あいつ、自分が未来から来たって白状したよ。それで、黙っててやるから俺を未来へ連れてってくれ、と頼んだのさ。」
「うーん、ちょっと筋立てに無理がないか?」
「お前は詰めが甘いって言いたいんだろ。しょうがないじゃないか。自分なんだから。」

まあ、細かいことを言ってもはじまらないか。

「それよりさ、これを見てたんだけどさ。」と、いきなり俺のチェキ帳を取り出す彼。
「お前、勝手に見るんじゃねえよ」
「明らかに数が増えてるよな、1年前よりも。」
「そ、そうか?別にいいじゃないか」
「それに、去年には無かった知らない顔がたくさんあるぞ。」
「よく覚えているな」
「推し増ししたのかよ。まさか、推し変したんじゃないだろうな」
「してねえよ。おとはすは神…って、何を言わせるんだ。それより、何でそんな言葉を知っているんだよ?」
「調べたのさ。ここの時代はインターネットという便利なものがあるからなあ。ライブでは、イェッタイガーとか言うんだろ?」
「言わねえよ。ってか、調べる方向がおかしくないか?ま、まさか、ライブに行くつもりか?」
「ライブはいいぞって、吹き込んだのは誰だよ。それにさ、接触の時に40年前の自分ですって言えばすぐ認知されるぞ。」
「認知って…。それよりも、頭のおかしい奴だと思われて出禁になる可能性のほうが強いから駄目だ。」

そういう問題ではない。

「それにしてもなあ、Juriってサインがあるけど、この人が新しい推しか?」
「だから、違うって」
「でもよお、何でそんなにアイドルの現場に通っているんだよ。」
「うーん、ひと言で言えば、面白いから。楽しいから。そして、時々マジックとしか思えないような瞬間に立ち会えるから」
「そうなのか?」
「これはある人の言葉だけどな、今の状況は英国の60年代後半や、70年代終わりから80年代始まりと同じ、だと。」
「どういう事?」
「1978年だと、パンクやニューウェイブの中から色んなバンドが出てきているだろ。一方ではテクノやディスコ、ファンク、そしてAOR。そんな、ありとあらゆる音楽がごっちゃになって今のアイドルにも流れ込んでいるんだよ。」
「なんかすごい話だな」
「それにな、彼女たちはみんなそれぞれ辛いことや将来への不安を抱えながら、ひとつひとつのライブに全力で取り組んでいるんだぞ。笑顔を振りまきながら。」
「・・・・・・・・・」 (ドッツか)
「いくら将来が不安だからって、未来を覗きに行こうなんて思うアイドルはいない」
「うるせえよ。別にそういうつもりで来たんじゃないよ。」
「そうか。悪かった。」
つい、ひとこと言いたくなってしまう。

iPhoneにLINEの着信が届く。
「おっ、そろそろカミさんが帰ってくる。」
「じゃあ、帰るよ。とりあえず、生きている事は確認できたからな。」
「慌しい奴だな。すーちゃんみたいだな。」
「すーちゃんってキャンディーズのか?」
いや、AH(嗚呼)のすーちゃんなんだけど、そんな事わかるわけないね。それに、キャンディーズのすーちゃんは、もうこの世にいない。それは言わないでおこう。

「なあ、もう来るな。」
「…ああ。」
「来るなら、猫を連れてきてほしいな。」
「それはどうかな。あいつも忙しいから。あいつ、あいつなりに外で闘っているからな、わかるだろう?」
「そうだな。」
「俺も頑張るよ」
「…彼女、大切にしろよ。」
「え?う、うん…なんか、どうしていいかわからなくて。」
「考えすぎるな。あ、そうだ。今度ラスト・ワルツを観に行くんだろ?」
「そうなんだけどさ。誘ったはいいけれども、良かったのかなあ。無理やりつき合わせてしまうような気がして。興味持ってくれるかな?」
「それは大丈夫だと思うよ。それよりさ、映画が終わったらバイバイだなんて、無粋なことはするんじゃないぞ。」
「え?どうしたらいいんだよ。40年前はどうしたんだよ。」
それが、正直良く覚えていない。お茶くらいはしたのだと思うけど。

「勝負する時は勝負しろ。タイミングを逃すな。言えるのはそれくらいかな。だいたいお前は、」
「詰めが甘い、だろ。」
「わかってるじゃねえか。ちゃんとつかまえておけ。」
「わかったよ。でも…」悪戯っぽい表情でこちらを見る。
「未来が変わっても知らないぞ。」
「おお、その意気だ。変えられるものなら変えてみろ。」
「わかった。じゃあな。本当に行かなくちゃ。」

彼がラベンダーの花を取り出す。部屋に漂うラベンダーの香り。
「1978年7月、土曜日の実験室」
彼は、去っていった。

「ただいま。あれ、誰かいたの?」
「いや、ラジオを聞いていたんだよ。」
「あれ、ラベンダーの香り?」
「ああ、思いがけない人から誕生日プレゼントをもらった」
「ふーん、女の人?」
「男だよ。若い男。」
「変なの。先にお風呂はいっていい?」
「どうぞ」

どうやら、未来が変わることはないようだ。

 当たり前に思っていた世界が なぜか 儚く見えちゃう
 今日の奇跡に愛を抱いたら セツナシンドローム
 (セツナシンドローム

 チューがしたいとか言ってた時代 とっくのとうに消え失せて過去形
 意識で動かせ全ての機能 美意識で変えてけ自分の世界を
 (ミライサーカス)

心拍数は上がったまま

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