最近やたらとこのアルバムを聞いている、というよりもこれしか聞けない、という状態に陥ってしまっています。
本当に参ってしまっているのだけど、どうしてこのアルバムにこれほど惹かてしまうのだろうか。
まずジャケットが良いですよね。中のブックレットもちゃんとしている。
そして、とにかく曲が良い。歌詞が心の奥に響いてくる。歌詞だけ読むと暗い音楽に思われるかもしれないけど全然そんな事はなくて、むしろ外に向かって開かれた音楽。
以下、順番に取り上げてみたいと思います。
1.世界が泣いてる
ねぇお願い気づいて 壊れそうな世界に
ねぇダーリン悲しいの 世界が泣いてる
静かに始まり、途中から幾重にも音が重なっていく。静謐なピアノ、間奏では讃美歌のようなコーラス(風な音?)にパイプオルガンのような音が重なる。アウトロでの、押し寄せてくるような壮大なオーケストレーション。
でも、大仰な感じは全くしない。小日向さんの淡々とした歌に胸を打たれる。
2.無駄遣い
一転して軽快なイントロ。でも、歌われるのはこんな内容。
無駄使いの命に届かなくて
毎日なんとか生きてる僕は
擦り切れた指伸ばしてみる
Bメロの歌詞は、分断と格差の今の世の中を象徴しているかのよう。
与えられたお金で学んだ奴らが
何もない僕にがんばれというんだ
2番のBメロの歌詞にも共感する。
努力が足りない 強迫観念
どちらにしてもお腹はすくんだ
それでも、前に進まなければ生きていけない。
前に進め 前に進め
悔し涙で前が見えなくても
前に進め 前に進め
いつかはきっと 戦う為
このサビを歌う小日向さんの声は、全然力強くも上手くもない。むしろ、喘ぎながら歌っているようにさえ聞こえる。そこにリアリティを感じる。
1番のAメロを繰り返す箇所や、最後のワンフレーズを歌う前で、さりげなく転調する所も憎い。アレンジもすごく好きです。
3.転がる
階段から転がり落ちるようなアレンジが素晴らしい。
階段駆け上がったら落っこちた
転がってく転がってく転がってく
4.私は神様
はじめまして私神様
地球は今日でなくなります
心当たりはあるかしら?
あなたのことだからきっとないね
設定が凄いよね。
神様なのに恋をして
叶わぬ運命逆らって
この目でちゃんと見届けたい
愛は愛はあるの?
宇宙規模の切なさ。
そして、たたみ掛けてくる言葉の美しさ。
なのに優しい瞳で悲しい歌を 小鳥のように歌っているの
空を飛びたい 何かになりたい 私はここで生きてた
5.モノクローム
8分の6拍子の佳曲。これも大好き。この曲に限らないのですが、イントロが本当に良いです。この曲も転調が効果的。
透明になるほどに 君に近づいていく
鮮明に焼きついた無色な君の涙
色彩を失った白と黒の部屋で
少しだけ微笑んだ 君に落ちてく
6.セフレ
この曲も凄い(語彙力が無くて適当な言葉が出てこない)。
淡々としたポエトリーリーディング。静かなバックトラック。でも、さりげなく不穏な音色。
セフレから始まった恋だった
都合がいいのが丁度良かった
誰にも言わない約束で
秘事に酔いしれていた
抱き合ってキスして 刻まれてく遊戯
泣いてるのは 私が恋に落ちた合図
7.夢見る羊ちゃん
またまたガラッと明るい曲調に変わる。
ベッドの中で眠る羊ちゃん
反撃のチャンス伺ってる
迷いの森に飛び込んだって
未だ見ぬ未来じゃ勿体ないから
その先は逝っちゃだめ♡
1234 1234 と繰り返す所があって、ランニングをしているとここのフレーズが脳内再生されるのだけど、いつの間にか「いつか死ぬのに いつか死ぬのに」と歌いながら走っている自分。
いつか死ぬのに いつか死ぬのに
いつか死ぬのに 勿体ないから
その先は 逝っちゃだめ♡
8.SOS
もう死にたいや 明日の事は知らないや
もう消えたいや 知らない場所に行きたいや
SNSでSOS
知らない誰かに気づかれたい
SNSでSOS
放り投げた言葉救って
歌詞の重さとは裏腹に、サウンドは軽快で明るい。
間奏の音が、昔のティン・パン・アレイみたいに感じてしまうのは自分だけ?*1
9.桜ひらひら恋心
桜が咲く春の光景が目に浮かぶような明るいナンバー。でも、これも切ない。
この出だしの歌詞は技能賞もの。
桜ひらひら君にくらくら 寄せては返す恋心
恋の最中 君に夢中 チューがしたいな下心
1度目の春は、2度目の春は、3度目の春は、というストーリー展開も上手いよね。
サビのメロディーが頭から離れなくなる。「ターンタタ ターンタタ」というリズムの刻み方が心地よい。
ひらひらひらひらひらひら舞う
スカート揺らして会いに行く
くらくらくらくらくらくらする
あなたの彼女になりたい
10.手と手
見た目なんてどうせ朽ち果ててしまうから
もっと話をしようよ 私ってわかるように
葉っぱの隙間から濡れだす 光が好き
ずっとキラキラした 2人でいようよ
イントロなしでいきなり歌から入るこの曲は、aikoなどと並んでラジオから流れてきそうな曲。ほんとだよ。
11.あなたとミサキドーナツ
これ、最高の王道アイドルソングじゃないですか。驚いた。最高。
イントロからキラキラしてる。Aメロ、Bメロ、サビの構成も完璧で、本当に良いメロディーだなあ。小日向さんの歌も、紛れもないアイドルそのもの。
Bメロ2番の歌詞。これ、良いでしょう。
私が歩いてきた道 あなたに重なり
並んだ足跡どこに続いて行くのかな
落ちサビ「夢から覚めてしまっても私 魔法を使えるよ」から、大サビの前の「じゃじゃじゃじゃじゃ じゃじゃじゃじゃじゃ」の仕掛けが、松田聖子の「風立ちぬ」みたい。
ドーナツの穴だけ食べてみて
覗いた世界は優しいの
私にたりないところはあなたが持ってるよ
2人で半分こ
ミサキドーナツとは、三浦半島の三崎に本店があるドーナツショップだそうで、来る8月29日にはここでイベントも行われるみたいですね。
ミサキドーナツ – 気持ちのこもった手作りドーナツ (misakidonuts.com)
12.それでも世界は美しい
雨降って葉っぱキラキラ
綺麗なものは掴めない
虹の麓に行きたくて
自転車全力でこいだ
ただただ美しい。
優しい人はこう言うの
私はいいよ大丈夫だから
どんな思いで言ったのか
想像すればわかるのに
それでも世界はただ輝いて
涙が溢れてしまうの
綺麗な言葉はいつからか
届かなくなってしまったの
歌詞にスポットを当て過ぎたかもしれません。
「自分に価値なんて見出せない」とか「死にたいや」など、言葉だけ読むと重い印象を持たれるかも知れませんが、音楽を聞けば全くそんな感じはしないと思います。
PANTAさんが、「淋しさの沼から立ち上がった虹のような笑顔がいまキミに振りそそぐ」とコメントを寄せているように、これを聞くと「確かに世界は美しい」し、「生きなきゃ」と思わせてくれるような、不思議な力が湧いてきます。
敢えて言えば、職業作家が書く作品と同じようなクオリティでありながら、職業作家の作品からは得られないリアリティと情念が感じられる、という事なのだと思います(職業作家と比較しているわけではありません、念のため)。
「それでも世界は美しい」の歌詞にあるように、綺麗なだけの言葉では届かないし人の心は動かせない、そんな事を思ってしまう。
小日向さんのライブは、これまで2回しか見た事がありません。
初めて見たのは2018年5月、新宿のK&Mミュージック。プロフィールやコールを手書きした画用紙を持って、ずっこけ気味に登場して来たのを見た時のインパクトは大きかった。
「妄想するなら 由衣ちゃん」とか「コミュニケーション廃止」とか、ロックだったな。
でも正直なところ、この時はまだイロモノみたいに思っていました。
その印象が変わったのが、その年の12月にビーハプで見た時。
「ドッペルゲンガー」や「夏の夢」といったら内省的な歌が心に響いてきて、物販でCDを買いました。
この時に何を話したか記憶はおぼろげですが、丁寧にサインを書いてくれて、別れ際にずっと手を振ってくれていた事はよく覚えています。
「また来てね」って書いてくれたのに、その後ずっと行っていませんでした。
でも、9月20日のPANTAさんとのツーマン(!)、そして10月3日横浜でのライブ(Tnakaさんとの共演!!)のチケットを押さえました。
これ、凄いと思いませんか?
そう言えば、marble≠marble(Tnakaさん)のこの曲は、小日向さんの作詞だったですね。
どちらのライブも、今から楽しみです。*2