素晴らしい、本当に素晴らしい、余韻を永遠に感じていたい、そんな風に感じさせられたライブだった。
冷たい雨が降る渋谷の街から六本木方向に歩き、青山トンネルを抜けた先に、この日の会場であるBAROOMがあった。
バーカウンターでドリンクを受け取り(ドリンク代1,000円には驚き)、イベントホールに入る。ステージを囲むように、座席が半円形に設置されている。座席数は100くらいだろうか。
僕の席は下手側の最前列、ピアノとエレピが目の前にある。ステージが近い。柵のような遮るものもない。舞台上に並べられている数々の楽器。天井からは鳥のモビール(キネティックアートの一種)が沢山ぶら下がっていて、まるで飛んでいるように見える。
開演時間の7時すぎ、バンドメンバーと潮音さんが登場する。
潮音さんはざっくりとした白い衣装( アルバムジャケットと同じもの?)を纏い、白髪のエクステ(だと思う、地毛じゃないよね)に赤いリボンのような飾りを付けている。
見た目はふわっとした感じなのに存在感がある。
この時点ですでに夢を見ているような気分。
オープニングは「しずくのカーテン」。
この日の仕事中、ずっとこの曲が頭の中で流れ続けていたのでびっくりした。
藤原マヒトはアコーディオン、桜井芳樹はブズーキ、川口義之はなんとバウロン(アイリッシュミュージックでよく使われる打楽器)を演奏している。
リズムと生楽器の音と歌声が程よくブレンドされていて気持ち良い事この上ない。
演奏はだんだんと熱を帯びていき、最後は潮音さんも軽く跳びながらギターを弾いていた。
(これは2022年9月のライブ映像)
「ジプシー」「青い鳥」「旅立ちの日」と、最新アルバム「青い鳥」からのナンバーが続く。演奏者はみんなアルバム「青い鳥」の参加メンバー。
アルバムの世界観が、目の前で見事に再現される。
楽曲により、楽器を持ち替えるメンバーたち。
マヒトさんはピアノ、エレピ、アコーディオン。リコーダーを吹いた曲もあった。
桜井さんはギターのほか、ブズーキ、マンドリンに8弦のウクレレ。
川口さんは本職のサックスの他、フルートにホイッスルにリコーダー、バウロンにパーカッションと、管楽器と打楽器を股にかけての大活躍。
「川口さんフルートは普段演奏しないんですけど私がどうしてもとお願いして吹くことになりました。カラオケで5時間練習したんですよね、領収書請求してください。」
ファゴット*1奏者の原元由紀はベースも兼任していたし、バイオリンの高原久実はコーラスにグロッケンも。
そして、湯川潮音はギターのほか、鍵盤ハーモニカ(ピアニカ?)を吹く場面もあり。それから足元のネコちゃんもライブに参加(「Last Waltz」の時だったかな?)。
ギターを持たずに歌う曲では、ステージと客席の間のスペースに出てきて歌ったりもした。
豊潤な生楽器の音に潮音さんの歌声。耳をそばだてて聞き入る客席。
誰もが静かにひたすらに、目の前の音楽に集中している。
自身が3歳の時のおぼろげな記憶を歌にした「1986」。
幼小の頃の事なんてはっきりと覚えているはずもないのに、何かの拍子に頭の中に光景が蘇る事がある。
ここで歌われるのは、両親と一緒にいる海辺の光景。
そして、親になって我が子の手を引く自分自身の姿。
これは、アルバムの中でも特に自分が好きな曲。
「リリアン」は、潮音さんが中学に入学した時から思春期を一緒に過ごしてきた愛犬の事を歌った曲。20年くらい生きていたそうだ。
突然目の前に現れ、走り去っていった少女。それはリリアン、あなただったの?
という、おとぎばなしのような曲。
最後は、アルバムと同様に「憧れの人」。
お父様である湯川トーベン氏と初めての共作であり、アルバムでも共演している曲。
「父は私よりも可愛い曲を作るので、私も狼とかじゃなく*2可愛い詩を書きました」
潮音さんの「良かったらご一緒に」という言葉に誘われて、客席も「ららら~」と口ずさむ。
この「憧れの人」に具体的なモデルはいるのだろうか?或いは特定の誰かを指したわけではないのだろうか?
それはわからないけど、少なくとも僕はエンケンさんを思い浮かべながら「ららら~」と歌っていた。
いつになったら あなたみたいになれるだろう
憧れの人 輝く星のような
話していたことや 一つ一つの仕草とか
いつか私の中にも 芽生えるかな
アンコールでは、まず弾き語りで「裸の王様」。
間奏での潮音さんのギターが、エンケンみたいだった。
もう胸がいっぱいになって、自然に涙が溢れてしまう。
この曲は、「リンダリンダリンダ」(2005年)という映画に出演した時に、待ち時間の車の中で歌詞を書いていたそうだ。
「セリフは2、3個しかなかったのに、これに出たせいで今でもWikipediaに女優と書かれている」
出番は少ないけど、怪我をしてバンドを離れた元メンバーという重要な役どころ。
終盤の文化祭の場面、時間になっても現れないバンドの代わりに「The Water Is Wide」をアカペラで歌う所は、クライマックスのバンド演奏シーンと双璧をなす、湯川潮音ならではの屈指の名シーンだと思う*3。
最後は、アルバムから「きおくの海」。
終わったら、いきなり現実の世界に舞い戻って来たような感覚を受けてしまった。
終演後、物販で購入した歌集「湯川潮音全歌詞 2003-2021」と、持っていなかったEPにサインをしてもらう。
「裸の王様」でのギターがエンケンさんみたいだったと伝えたら、「他の人にも言われましたけど恐れ多いです。」と言っていた。
「どうかその戦いをやめないで 一人でも」
「裸の王様」という、普通は虚栄心にまみれた独裁者というマイナスの意味で使われる言葉を、周りには目もくれず我が道を行く孤高の存在として捉えているような歌。
でも、この歌に込められた真意は自分には謎のまま。
会場を出たら、雨は雪混じりになっていた。
「まだ、心はあの場所に置いてきたような感じ」
そう、そんな感じがずっと続いています。
昨日は青い鳥Live BAROOMにお越しいただきありがとうございました!!
— shioneyukawa_info (@shione_y_info) 2025年3月9日
まだ、心はあの場所に置いてきたような感じがしていますが、、、… pic.twitter.com/oEDYRXuwK0